毎年二回ニュースで大々的に取り上げられる芥川賞。センセーショナルな作品が受賞しているのに、なぜかライトノベル(ラノベ)が取り上げられたことが無い、気がする。気がするではなくて、実は受賞したこともノミネートされたことも無いんですね。
新人作家で斬新な作品が選ばれる賞なのに、なぜラノベが受賞しないのか? ラノベがダメならSFはどうなのか? 芥川賞とライトノベルの関係についてです。
芥川賞はライトノベルじゃ受賞できないの?
実は芥川賞は過去一度もライトノベルがノミネートされたり、受賞したことはありません。戦前からすでに70年以上、150回以上も機会があったのに、です。ということは、元々ライトノベルと呼ばれる作品群が芥川賞の選考内容に全く合致していないと考える方が自然ですね。
芥川賞は公募の賞ではないため、応募要項などは存在していません。応募要項が無いということは選考基準が見えづらいということでもありますが、実際には公益財団法人 日本文学振興会のHPにはちゃんと書かれています。
この中で芥川賞は、新進作家が手がけて期間内(半年)に同人誌を含む雑誌で発表された短編あるいは中編の純文学作品ということです。つまりライトノベルの場合には新進作家と期間内に雑誌で発表された短編あるいは中編の作品までは条件として当てはまっていても、純文学というところで条件を満たしていないということになります。
この純文学という言葉ですが、純粋に芸術性を追及した文学作品という意味なのです。対義語として思いつくのは通俗文学や大衆文学、娯楽作品という言葉です。
ライトノベルは芸術性を追求しているというよりは、どちらかというとエンターテイメント娯楽作品としての色が強い物です。ピアノのコンクールにギターで出場しても優勝できないのと同じことです。そのため芥川賞にノミネートされたことも受賞されたこともなく、またこれからもそのようなことは難しいと考えられます。
一方でその娯楽作品としての賞が同じタイミングで発表される直木賞です。
直木賞は中堅作家が対象になることが多い賞ですがエンターテイメント作品のための賞なので、実はラノベ作家がノミネートされ受賞したことがあります。
ファミ通文庫の『ロンリネス・ガーディアン』でデビューし、富士見ミステリー文庫の『GOSICK -ゴシック-』や『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』で有名になった桜庭一樹さんは、137回と138回の直木賞にノミネートされて138回の直木賞で受賞しました。
この事例からも、芥川賞では賞のスタンスからライトノベルが受賞することは無理かもしれませんが、直木賞の方は大変革があればもしかしたらライトノベルがノミネートの可能性があるかもしれませんね。
芥川賞にSFがノミネートされたり受賞したことは?
ライトノベルと同列にするとまた双方から怒られそうですが、SFが芥川賞にノミネートされたり受賞したことはあるのでしょうか? ラノベに比べるとSFはなんだか堅そうだし、古いSFなんかはライトノベルのような気軽さでは理解できないような難解な作品もありますよね。
ですが残念ながら、SFも芥川賞にノミネートされたことも受賞したこともありません。
どれほど難解な作品であったとしても、SFも純文学とは一線を画す存在として認識されているようです。純文学がピアノでライトノベルがギターならば、SFはシンセサイザーかもしれません。
ただし1951年上半期第25回の芥川賞において、安部公房さんが『壁』という作品(正確には6編からなる短編集)で受賞しています。この作品はSF的な手法を用いて表現されているので、完全なSF作品ではありませんが要素として若干のSFを感じることが出来ます。
芥川賞にノミネートされる条件って何?
ノミネートの条件はいくつかあるようですが、一般の私たちから見えるのは以下のポイントです。
●無名あるいは新人の作家であること
●該当の期間内に発行されたものであること(上半期・下半期)
●同人誌を含む雑誌に掲載されたもの
●短編あるいは中編であること
●芸術性が重視される
このように芥川賞は芸術性を非常に重視する新人賞なので、斬新・センセーショナルと銘打った作品が並ぶことが多いです。
さらに、純文学と言えども流行り廃りというものが存在しています。そのため、その時代の最先端を行く作風、時代に合致した作風がノミネートされたり受賞していることが多いように感じられます。
逆に過去に芥川賞を受賞した作品がもし今発表されたとしたらどうなるか予想すると、作風が時代に合っていないと判断されれば受賞どころかノミネートも難しいかもしれないわけです。
時代・流行・純文学・斬新さ、これらの物が凝縮した作品が選ばれていると考えると、芥川賞は服飾銘柄店の新作発表会のパリ・コレクションのような「この服いつどんなシチュエーションで着るの・・・?」な雰囲気に似ているのかもしれません。だとすると、ライトノベルやSFは東京ガールズコレクション・・・かもしれませんね。
ラノベで芥川賞のまとめ
●ジャンルが違うので受賞もノミネートの事例も存在しないし、これからも難しいと考えられる
●ただしライトノベルレーベル出身の作家は大衆文学の賞である直木賞を受賞している
●SFもジャンル違いなので受賞・ノミネートの事例はないが、SF的手法という意味では事例がある
●ノミネートの条件は純文学・新人・雑誌掲載・短中編であること
昨今のラノベブームによりライトノベルは売り上げがそこそこあるようですが、純文学の作品の売れ行きはあまり良くないと聞きます。しかし毎日ニュースさえ見ていれば毎年二回は目にする純文学の賞が芥川賞です。純文学というと少しカタッ苦しくとらえてしまいがちですが、要は芸術性を追求した最先端ギリギリの作品という意味です。あまり構えずに読んでみても面白いかもしれません。
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